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原・石川研究室は材料・表面・化学・触媒を専門とするグループです。



触媒の全てが反応サイト

1. はじめに:触媒の大部分は使われていない

 触媒の多くの部分は使われていないのをご存じでしょうか。一例として代表的な酸触媒としての「硫酸担持ジルコニア(以下ZrS)」を示します。ZrSに白金を担持した触媒はアルカンの異性化反応における工業触媒としても用いられており、産業的にも重要な材料です。
 近年は省エネルギー化が要請されており、より高性能な固体触媒の開発が切望されています。ZrSについても同様です。より良い触媒とするには、どのようなアプローチが考えられるでしょうか?
 ZrSはジルコニウム酸化物(ZrO2)に硫酸を担持後、熱処理することで調製されます。しかし熱処理の過程で、安定性の似通ったさまざまな硫酸種がZrO2上に形成されてしまいます。すなわち、ZrS上では触媒活性点数が制限されていると言えます。もし、高性能な部分だけを規則正しく並べたら、その触媒性能は?反応に高活性な部分だけ構成された触媒はもはや人知の及ばない性能を発揮するでしょう。
このような、触媒の全てが反応に高活性なサイトの「????触媒」を生み出すのが私たちの挑戦です(図1)。


2. 触媒のつくりかた
 「触媒現象」は、反応物と触媒の間で電子のやり取りが行われることで進行します。それでは、触媒とはどのような状態にあるとよいでしょうか?もし触媒が安定すぎたら・・・触媒は反応物に作用することはありません。それでは、もし触媒が不安定すぎたら・・・触媒は反応中に分解してしまい、元の、活性を出せる状態には戻り得ません。「触媒現象」とは、構造的に「準安定」なサイトで起こるわけです。実際、触媒は準安定な状態になるように合成されてきました。しかし、従来の触媒合成法では、準安定な状態をキレイに作る方法はありませんでした。そのため、これまでの触媒は、構造中の一部に準安定な状態(≒触媒活性点)が形成される、という範疇に留まります。
 私たちは、準安定かつ原子が均質に配列した新たな物質状態の合成を着想し、準安定な結晶性物質合成に適した低温プロセスを駆使して、新たな触媒の開発を進めました。その結果、図2に示すように、構造が均質な結晶性Zr3SO9複合酸化物の合成に成功しました。


3. 触媒性能
 構造が均質なZr3SO9触媒はさまざまな酸反応に対し、既報の硫酸担持ジルコニア触媒をはるかに上回る触媒性能を発揮しました。また、白金を担持後にアルカン異性化反応を行ったところ、その活性は白金担持ZrS(本反応の工業触媒)の約4倍にも達しました(図3)。触媒活性点が結晶構造中、均質に最大密度で配列したことに起因します。


4. メカニズム 
 ZrSは確かに優れた触媒活性を発揮する触媒ですが、活性点が不均質であったため、触媒の「どこで、どのように」に触媒作用が発現しているかを特定することは極めて困難でした。一方、Zr3SO9は原子が均質に配列しているため、どこが活性点となっていて、どのように触媒反応が進行するかを特定することができます。さまざまな分析を行うことで、この触媒の活性点を図4のように決定することができました。

5. 展開
 このように、触媒全体が反応サイトとして機能する新たな物質状態を創出することで、革新的な触媒活性の発現が可能となるだけでなく、触媒の「どこで、どのように」反応が進行しているのかを特定することができます。この研究アプローチはZrSにとどまらず、他のさまざまな触媒系にも適用可能であり、これまでに複数の系において、反応サイトのみで構成される固体触媒の開発に成功しています(図5)。
 この研究は現在も発展途上にあり、今後さらに多様な触媒系への展開を通して、革新的な触媒の創出と触媒作用の本質的理解が進展すると期待されます。